[HP] 同胞ならではの年金相談事例

事例1

Aさんは、1945年1月3日生まれの特別永住者の女性。これまで年金保険料を納めた記憶もなく、自営業者の夫も年金保険料を払った記憶がないので、年金を諦めていました。
Aさんは総聯支部の会合で、受給資格期間の短縮と「カラ期間」の説明をうけ、自身の対象カラ期間が17年(204か月)あることがわかりました。カラ期間だけで10年以上あるので、あと1か月でも保険料納付済期間、もしくは保険料免除期間があれば、新たに年金を受給できるということです。
Aさんは自身の職歴を振り返り、30代のときにパートで数か月働いていたことを思い出しました。しかし40年ほど前のことなので、会社名も場所も曖昧な記憶しかありません。それでも、会社のあったおおよその場所(東京都中央区あたり・・・など)や業種(繊維業、ゴム工場など)といった情報をできる限りあげると、年金事務所がそれをもとに調査してくれるときいたので、Aさんの息子のBさんが代理で年金事務所に行き年金記録を照会したところ(本人の「委任状」があればだれでもできます)、パートの5か月の厚生年金加入記録がみつかったのです。使っている名前が変わっていたこと、住所変更をしていなかったことなどで、年金記録が宙に浮いていたのです。年金機構によれば、現在2200万件の記録が宙に浮いた状況で、年金記録を照会した9人に1人は年金記録がみつかっているとのことです。
――これでAさんは204か月のカラ期間と5か月の保険料納付済期間により、改正年金機能強化法による制度改正後の受給資格期間(10年=120か月)を満たし、保険料5か月分なので少額ですが、今年10月から新たに老齢年金(9月分から)を受給できるようになります。
このように在日同胞の場合、職場で日本名や民族名など違う名前をつかっていたりするので、年金記録が本人と繋がっていない可能性が高く、そういった年金記録を掘り起こすことで、年金が増額したケースや新たに年金を受給できるようになったケースが数多くあります。同胞ならではの重要なポイントです。
かりにAさんが既に保有している自身の年金加入記録に、カラ期間をあわせると25年以上あることが分かった場合、現行法で既に受給資格を満たしているので、9月分からではなく、もらいそびれている年金(5年の時効で消滅していない分)を含めてすぐに年金を受給することができます。なお、記録照会などにより年金記録が訂正されて25年の受給資格期間を満たした場合の年金(もしくはすでに年金受給している方の年金記録訂正による増額分)は、年金時効特例により時効消滅分(5年以上前の年金)も含めてすべて受給できるので、高額の年金を取り戻すケースも想定されます(遅延特別加算金も加算されます)。

事例2

Qさんは1928年3月生まれの在日2世で、89歳になりました。
Qさんが66歳の時、夫が死亡したので、その時から現在まで会社員だった夫の遺族年金を受給してきました。Qさんはずっと専業主婦で、内職の経験はあるものの、勤めた経験は一切ありません。
ところが、息子がたまたまQさんの閉鎖された外国人登録原票を取り寄せたところ、Qさんの勤務先欄に大阪のカバン加工会社の名前が記入されていました。
そこで、息子が時間をかけてQさんに聴き取りをしたところ、戦後間もない頃、大阪のカバンをつくる工場でちょっとアルバイトをしていたと言うのです。その記憶をもとに年金事務所で(Qさんの本名、結婚前の通称名、結婚後の通称名、新暦・旧暦の生年月日などをもとに)Qさんの年金加入記録を調査したところ、なんと24か月の厚生年金加入期間が見つかったのです。
Qさんには永住外国人のカラ期間と会社員の妻のカラ期間を合わせ24年あります。また、1930年4月1日以前の生まれの人には、生年月日による受給資格期間の短縮特例があります。1928年3月生まれのQさんの場合、受給資格期間は22年です。Qさんはこの特例を満たすことになり、見つかった24カ月の厚生年金加入期間について老齢年金の受給資格があることがわかりました。
Qさんは66歳から夫の遺族年金を受給しているので、66歳以降現在までのQさんの老齢年金については受給権が停止となりますが、60歳から66歳までの6年間分が「もらいそびれ」ということで請求が可能となりました。
Qさんの場合、実際に加入した期間は24か月なので、年額8万7千円の老齢年金(基礎年金部分+報酬比例部分)がもらえることが判明しました。
年金記録が訂正されたことから「時効特例」の対象となり、60歳から66歳までの6年分(約50万円)が遡って支給されることになりました。

事例3

昨年の1月、Bさんのアボジが90歳で亡くなりました。葬儀も終わり、Bさんが高齢のオモニに代わって年金事務所で遺族年金の申請をしようとしたところ、韓国の家族関係登録簿にあるアボジの生年月日(1926年3月9日)と死亡届けに記載されている生年月日(1926年6月10日)が異なることを指摘されました。Bさんはその時はじめて、アボジが生前に韓国の法院で生年月日の訂正をしていたことを知り、死亡届けにある生年月日を家族関係登録簿の記載に合わせて訂正(追完による訂正)をしました。
ところが、数日後に年金事務所から連絡があり「アボジの生年月日が1926年3月10日なので、アボジは年金受給資格期間を満たしておらず、そのため、本当は老齢年金の受給資格が無いのに年金をもらっていたことになる。亡くなるまでの過去5年間に遡って5年間分の年金(約350万円ほど)を返還してください」と言われたのです。
何故、そんなことになったのでしょうか?
在日同胞には長らく年金制度から排除されていた時期があります(1961年4月~1981年末)。その後の1986年の制度改正により、その期間を「カラ期間」として年金受給資格期間に算入することができるようになったものの、1926年4月1日以前の生まれの人はこの「カラ期間」は適用されません。
Bさんが承知していたアボジの生年月日は1926年6月10日です(アボジの特別永住者証明書上の生年月日も同じ)。アボジのカラ期間は20年9か月あります。アボジがかつて製薬会社に勤めていた時に加入していた厚生年金の7年間を足して27年9か月となるので、アボジは少額ではあるものの老齢年金を受給できていたのです。
ところが、生年月日が1926年3月10日となると、「カラ期間」の適用が無いためこの20年9か月が無くなり、25年の受給資格期間を満たしません。なのでアボジには受給資格が無かったのに、年金をもらっていたということになるのです。
これまでアボジが受け取った年金分を返せと言われても、5年分なので莫大な金額です。途方にくれたBさんがセンターを訪ねてきました。
センターでは詳細を伺い、Bさんからアボジの生活史を聞いてみたところ、戦前に来日したアボジは、解放後、何度も仕事を変えていたとのことでした。そこで、ダメ元で、アボジの外国人登録原票を取り寄せ、そこに幾つか勤務先が書いてあったことから、センターの専門相談員をとおして年金事務所であらためてアボジの年金加入記録を調査したのです。調査にはかなりの時間がかかりましたが、なんと25年を上回る加入記録が出てきたのです。あらたに年金記録が見つかったことから、アボジの年金加入記録が訂正され、合わせて年金の金額も訂正されました。その結果、アボジが生前にもらいそこねていた年金額が65歳から無くなる90歳までの25年分(時効特例)が一括して支払われることになったのです。*Bさん「宝くじにあたったようなもの!」と大喜び♥♥
かつて「宙に浮いた年金記録問題」が世間を騒がせた時期がありましたが、在日同胞の場合、様々な要因・背景から、年金記録は「宙に浮いた」り、バラバラになっていることが多く、Bさんのようにあっと驚く事例が他にもあると思われます。是非、アボジ・オモニの年金記録もダメ元でも調査してみることをおすすめします。