[HP] 同胞と国籍

 日本人やその他の外国籍の人との国際結婚が増加する中、同胞法律・生活センターに寄せられる相談には、配偶者やその間に生まれた子の国籍がどうなるのかというものがあります。
 在日同胞の場合、①本国が南北朝鮮の「分断国家」で、②一方の朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国)を日本政府が承認せず、さらに③「未承認」を理由とした差別的行政により、同胞の国籍問題は他の外国籍の人に比べると複雑です。
 そもそも国籍とは、「ある国の構成員、あるいは国民(公民)たる資格」で、誰が国民であるかを決定するのはその人が属するとされる国の法によります。国籍の決定は主権に関わる国内管轄事項というのが国際法上の原則です。ある人が日本国籍を持っているかどうかは日本国籍法が、フランス国籍を持つかどうかはフランス国籍法が決定するのです。
 したがって、在日同胞の国籍は日本の国籍法は勿論、ましてかつての外国人登録法によって決められたものではありません。現在、特別永住者証明書や在留カード上の記載が「朝鮮」であれ「韓国」であれ、それは日本の法律によるもので、その記載のいずれかでその人の国籍が決まるのではありません。「朝鮮」だから朝鮮民主主義人民共和国の、「韓国」だから大韓民国の国籍を持っていると理解している人も少なくないようですが、それは間違いです。
 では、特別永住者証明書などの国籍欄に記載された「朝鮮」「韓国」という表示は何なのか?周知のとおり、この「朝鮮」「韓国」という表示は日本政府によって恣意的にもたらされた経緯があります。
 かつて植民地支配期から1945年の解放を経て、1952年のサンフランシスコ講和条約発効まで、在日同胞は「日本国籍」とされていました。しかし実際には、1947年に「外国人登録令」が実施され、その当時の登録の国籍欄には「朝鮮」と記載されました。その後1948年に共和国、大韓民国が設立され、朝鮮半島の分断後も国籍欄の記載は「朝鮮」でした。1950年に駐日韓国領事部の要請を受けてGHQが日本政府に対し「韓国への書換えを認めるよう」覚書を出し、「本人の希望によって韓国または大韓民国と記載しても差し支えない」とし、他方で「朝鮮民主主義人民共和国と記載するよう申請があっても一切応じないこと」という取り扱いをしたのです(民事局長通達554号)。
 1965年韓日条約による韓日法的地位協定では、外国人登録上「韓国」と表示されている同胞にのみ協定永住権を付与するという非常に差別的な取り扱いを行いました。さらに①「韓国」表示のみを国籍とし、②「朝鮮」表示は「符号」とみなす、さらに③すべての在日同胞の国籍問題の処理については一律に大韓民国国籍法が適用されることになりました。すなわち日本国内では「韓国」表示のみが国籍として通用するようになったわけです。
 在日同胞の国籍の扱われ方にはこのような歴史的経緯があります。本国の南北分断という現実や日本と南北朝鮮の政治関係を背景に、このような日本政府(かつての外国人登録法)による国籍欄の差別的な分断表示が同胞社会の分断とさらには個々人の本国への帰属意識をも分断してきたように思います。
 在日同胞の国籍の認定は、共和国国籍法が承認され、私たちが持つ共和国の国籍証明書や共和国旅券、あるいは韓国旅券や在外国民登録などに基づいてなされるべきなのです。