[コラム] ひとりで抱え込まないで

認知症と聞くと、徘徊や暴力、物盗られ妄想などの「問題行動」を真っ先に思い浮かべる人が多いようです。そのためか、認知症になると何も分からなくなってしまう、という不安や偏見も根強く残っています。
認知症による記憶障害や判断力の低下から「問題行動」が引き起こされるのは事実ですが、実はこれにも「幼いころ住んでいた家に戻りたい」「子ども扱いする家族や職員が腹立たしい」など、本人なりの理由があると言われています。介護する側がゆったりとした心と敬いの念を持って対応することで、「問題行動」も本人の意思表示へと変わるのです。認知症になっても人間の自尊感情は最後まで残っていることを、常に忘れずにいたいものです。
しかし、頭では分かっていても実際には戸惑いや怒りを抑えられないところに、家族介護の難しさがあると言えます。仕事と介護の両立や、社会からの孤立などにより精神的に追い詰められることも珍しくありません。そうした時はケアマネジャーや家族会に頼って、一人で抱え込まないようにしましょう。
認知症との付き合いはゴールの見えないマラソンのようなものですから、家族が介護の犠牲になるだけでは本人の幸せも守れません。デイサービスやショートステイ、家族会や認知症カフェなどを上手く活用し、本人も家族も、外部とのコミュニケーションが断たれないように工夫することが大切です。
在日同胞 1世の場合、認知症により母国語と日本語の使い分けができなくなったり、対応する職員に知識や理解がなく、コミュニケーションが図れない場合があります。また、1世でなくても同胞コミュニティでの生活が長かった場合などは、日本人だけの施設に通うことに抵抗を感じることもあります。認知症になっても最後までその人らしく過ごせる環境を整えるために、地域の同胞コミュニティが持つ資源を活用することが求められています。